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APSTinyCAPSWTinyCAPSVTinyCAPSTTM(TimeTableMonitor)法廷同録MusicBox開発記録 |趣味 |

【空飛ぶ歓び】
 パラグライダーで静岡市の空を飛んでいます。定年後たまたま見つけたパラグライダー体験イベントで魅力に取りつかれ9年になります。  藁科川上流ダイラボウ山頂を飛び立ち、高度800メートルを漂うと右には焼津の町から御前崎が、振り返れば南アルプスの白い頂、左には富士山そして正面は碧い駿河湾が広がります。

 動力を持たないパラグライダーの翼に乗って時には高度2000メートル近くまで昇り2時間近く滑空します。  揺れます、煽られます。翼がつぶされバサッという音でつぶされた翼が回復したことに気づきます。蒼ざめドキッとし飛び立ったことを後悔し予備パラシュートに手が伸びます。

 それでも風に乗って滑空し、旋回し、上昇気流を探し高みに昇ります。風を切る音はゴーゴーと響き、時にはサーと優しく誘います。 眼下の緑、藁科川の澄んだ川底を見ながら鳶とともに漂えば自然に包まれている幸せを感じます。

 怖い思いをしても爽快感と自然と一体化する魅力に抗えません。子供の頃からの「鳥のように空を飛びたい」夢がかなう瞬間です。 とは言えパラグライダーの事故で毎年数名の方が亡くなります。油断とミスと不運が重なって事故は起きるようです。

 友も亡くなりました。やむなく着水した際の事故でした。経験は少なくても将来はリーダーと嘱望された高い技量の持ち主で子煩悩の好青年でした。救命ボートさえあれば助かったと思います。家族を残しどんな思いだったかと悲しく残念で悔しくてたまりません。 なぜか命日に鮮やかな彩雲が見られます。仲間はそれが彼の「楽しく安全に!」とのメッセージだと思っています。

 パラグライダーは究極の個人スポーツです。助言は受けても行動は全て自己責任です。自らを助けるのは自分のみです。  いろいろな話を聞きます。ある人は高圧線に行く手を阻まれ必死の思いで高圧線を潜り助かりました。決心して高度を下げ始めた時が恐怖のピークだったそうです。「無理やり高圧線を超えて感電するか、潜って樹に引っかかるか迷いも選択肢も無かった」とは後の笑い話です。 ある人は強風下のフライト時、峰を超えたら向かい風に阻まれ戻れなくなり狭い空き地に落ちるように着地しました。見上げると高圧線をかすめたことに気づきゾッとしたそうです。

 またある人は気が付いたら樹木の途中に引っかかり、太い枝に座っていました。気流の乱れで急降下したようです。気が動転しロープなどの救命器具を落としてしまい、樹にしがみ付きながら地上に下りたそうです。樹を超えようした瞬間と目の前に迫る枝と葉しか記憶が無く、恐怖が記憶の一部を消したようです。いずれのケースも無事だったのが不思議です。

 緊急時の対応は今までの訓練と知識、経験を生かす人生の実力テストです。まずパニックにならない、騒いでも何にもならないことを知るべきです。急激な動作をせずに状態把握に努めます。歯を食いしばり安全に降りられる或いは安全に見える場所を探します。無事に下りたら更なる練習と技量向上を誓い幸運に感謝すべきです。

 緊急時対応はパラグライダーに限らず危険を伴うスポーツに共通です。このような経験が通常の緊急時に役立つかは疑問ですが、シュミレーションとして生かせればと思っています。

 定年を迎えた悠々自適の知人は「適度なストレスが無い生活はつまらない、あんなに嫌だった仕事や人間関係のストレスでさえ懐かしい」と言います。もっとも再就職する予定はなさそうです。「ノーリスク・ノーファン」、(多少の)危険無き喜びはないと実感しています。 コロナ禍で外出禁止の間、飛びたい気持ちを抑え、本を読み撮りためた映画を観ていました。楽しくはあっても刺激がありません。禁固刑を受けた模範囚の気分でした。いかにパラグライダーが日々の生活に刺激を与えていたか気づきました。

 費用も時間もかかるこのスポーツは多くの高齢の方が楽しんでいます。職業や人生経験も多彩ですがグチを言わず、前向きなところが共通しています。飛びを楽しみ、時に緊張を強いられるのが良い刺激になっているようです。そもそもパラグライダーを選ぶのは最初から活発でポジティブな人との説もあります。

 一人で飛ぶパラグライダーは楽しくありません。軽口をたたきながら仲間と共により高く、より遠く、より長く飛ぶことを競います。アヒルが群れる様を表すガグリングと呼ばれる手法で同心円を描いて飛ぶと充実感と一体感を感じます。 条件の良い空域を取り合いながらも飛行中はお互いに仲間の動向を気にかけつつ緊急時には助けに向かいます。

 着地後は多少の疲れと高揚した気分でお互いの飛びを批評し助言しながら楽しい時を過ごします。また見学している地元の人々の質問に答え歓談し、ダイコンなどを頂くことがあります。地元の方々に迷惑をかけず歓迎されていることは私たちの誇りです。

 私の親世代の人々は仕事が楽しみ、定年後は退屈し、壮年時の輝きを失う人が多いようでした。善良且つ真面目、楽しみを追うことに何故か罪悪感を感じる世代が私には不思議でした。平均寿命世界一といわれる日本で定年後どう生きるかは大きな課題です。真面目に仕事に取り組んだ人ほど心から打ち込める趣味や生きがいを見つけるのは難しいことです。

 若いころからの趣味興味を追求できるのは幸運です。親と同じ世代になった今、刺激的で爽快な趣味を見つけたことに感謝し、体力気力が続く限りパラグライダーを楽しむつもりです。


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