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APSTinyCAPSWTinyCAPSVTinyCAPSTTM(TimeTableMonitor)法定同録MusicBox |開発記録 |趣味

 開発者藤嶋はTV/Radio兼営局で38年間技術者として過ごし、その経験と知識を活かして出向先のCFM(コミュニティFM局)で老朽化したAPS(自動番組送出装置)を手作りで更新しました。 出向時、CMFのメーカー製APSは設置後10年以上経過していました。その設計思想は旧来の県域ラジオ局のAPSをスケールダウンした堅実なもので、毎朝定められた時刻に当日のタイムテーブルをEDPSから読み込みスタンバイしていました。 ハードウェア構成は当時の技術背景を反映しWindows95パソコンで音声切替え用のスイッチャーと、HDDを媒体にしたCMバンクをタイムテーブルに従って制御し自動送出を行うもので、制御卓を備えラック3本構成の重厚なシステムでした。番組送出用にはCD, MDプレーヤ そしてDATを備え、録音番組の放送には主に2台のMDを交互に使っていました。この老朽化したMDはしばしば再生中にストップし担当者が慌ててリスタートしていました。また複数の録音番組を送出するためMD媒体の交換が必要でその手間は人数の少ないCFMには大きな負担でした。

 スタジオ内のMDも同様に老朽化し同じ問題が起きていました。これらの問題を解決するためには番組を音声ファイル化し、MDレスのシステムにするしかなく、そこで開発した音声ファイル再生アプリケーションがMusicBoxの基になるものでした。

 ある日「CM登録できない!」という叫び声に駆けつけると、CMバンクにCMを登録できない事態に担当者が困り果てていました。 APS用PCからCMバンクを録音制御するRS422ラインの故障でした。幸い再生制御側は生きていたので放送はできましたが、CMの登録更新が全く出来ませんでした。メーカーによる作業員二人の交通費を含む修理費用は後述する新APSのハードウェアに匹敵する額でした。 以前の修理記録を見ると5年前にもAPS用PCのHDDが故障し、数GbクラスのHDDが入手困難のため40GbのHDDを小容量に加工したものに交換されていました。そろそろ同じ故障が起きてもおかしくない時期になっていました。また旧APSの時刻は狂いがちで、しばしば時刻合わせが必要でした。その上、月一回はPCの再立ち上げをしないと安心できない状態でした。

 APS更新のためメーカーにデモンストレーションと見積もりを依頼しました。メーカーAはEDPS機能を含み不満はないものの約600万円の見積りの他、毎月2万円の遠隔保守料に加え5年ごとのPC交換を求められ、その費用は約70万円でした。メーカーBのものはEDPS機能はありませんが見積もりは約300万円でした。これでは年間数千万円の売り上げで数百万円の利益程度のCFMにとって、APS更新のためCFMを運営し続けるようなものです。APS自作を決心した瞬間でした。

 筆者が放送局入社時に配属されたのはミニコン(DEC社PDP-8)によるAPSを保守管理する部署でした。38年前のAPSアプリケーションは非力なミニコンの全機能を搾り出すようにアセンブラ言語で書かれていました。まだバグが取りきれずメーカーもソースコードを公開しユーザーと共同で改修を続けました。良い時代でした。この経験を通しAPSの設計思想とプログラミングを学びました。 TV放送用にVTRやフィルム映写機などプリスタート制御が必要な被制御機器があり、それらの機器はオンエア10秒前にヘッドを回転させ、 3秒前にプリスタートさせるなどの事前制御が必須でした。且つ音声のフェードコントロールもあり、それらのタイミングが重なった際の複雑な同時制御に工夫が必要でした。PDP-8の能力はスペック上i8080など初期のマイクロコンピュータ程度でしたが、体感ではマイコンを凌駕し名機と呼ばれた所以です。

 「38年後のPCの能力はすばらしくCMバンク機能はHDDに内蔵できる。」「音声ファイル録音/再生機能は開発済み。」 「音声切替え機能を持つPC録音ボードも見つけた。」このボードは10入力10出力のクロスポイント機能があり、 アナログステレオ4回線+デジタルステレオ1回線に音声を入力し、アナログステレオ4回線+デジタルステレオ1回線それぞれ個別に選択出力することが出来ます。 「プリスタートなどの事前制御が必要な機器は無い。アプリケーション開発は難しくないはずだ。」「EDPSはそのまま使え開発する必要は無い。」 などと今思えばあまりに楽観的だったのですが、VCによる開発を始めました。

 新APSの心臓部は上記音声ボードを内蔵したPCとインターフェイスボックスだけです。 このインターフェイスボックスは音声ボードのピンコネクタをキャノンコネクタに変換する回路とVU計とモニタスピーカを内蔵しています。 一般的に放送局ではマスター室のAPSからスタジオのモニタにタイムテーブル情報を送ります。多くのCFMではAPSのVGA出力を同軸ケーブルで延長していますが、 新APSはタイムテーブル情報をLAN経由でスタジオ内のPCに送ります。 その結果、同じLAN経由でアンタイムTake処理や番組Skipやモニタ列のソースを直接OAする緊急処理Emgをリモートコントロールできる シンプルでスマートなシステムになりました。事務室のPCでもAPSにLAN接続すればOA監視や緊急処理が可能です。 時刻合わせはOSがネット経由でタイムサーバーに数時間置きにアクセスし自動校正するので誤差はほとんどありません。

 TCP/IPや音声ファイル再生/録音など幾つかのクラスを作る必要はあったものの開発は思ったより順調に進み、数ヵ月後APSアプリケーション(TinyCAPS)とスタジオモニタ用TTM(TimeTableMonitor)アプリケーションが完成しました。動作確認を兼ねて旧システムと同期運行を始めました。このテスト期間中、旧システムのCMバンクへのCM登録とMDでの番組制作、新システムへはCMと番組の音声ファイル化と、担当者は二重の手間で大変な期間でした。 この間アプリケーションのバグ退治に追われ、音声のフェード処理と、LAN経由でのAPS制御に最も時間をとられました。 音声のフェード処理はフェードインとフェードアウトのレベル変化カーブを等しくすると違和感があり、自然な聴感を得るのに苦労しました。 またスタジオからAPSへの制御は外乱による電文の文字化けに悩まされ、安定した電文送受の確立には工夫が必要でした。

 問題が解決しTinyCAPSTTM(TimeTableMonitor)他が完成したその年の夏、旧APSをバックアップ機として新APSによる放送を開始しました。 直後の2,3週間は常に緊張し、番組内のちょっとした間にもドキッとして過ごしました。 幸い大きな問題も起きず半年間テスト運用を行った後、予備APSを追加し現用予備体制を整えました。 TinyCAPSがシンプルで安価の故、可能なことでした。新APSの安定稼動に加え予備機の存在で心理的負担は激減しました。 開発中に発見された胃炎が今は完治しています。 旧APSはCD,MDとDATを含め廃棄しましたが、電源を落とし再起動させたところHDDがフリーズし二度と立ち上がりませんでした。 APS更新はぎりぎりのタイミングでした。

 新APS設計に当たり「Simple is the Best.」「完全なソフトは壊れない」を規範にシンプルな設計を心がけました。 番組切替えやMDスタート、スタジオタリーオンオフのタイミングは外部割込みを用いず、PCの内部時刻とタイムテーブル情報とを比較し、 制御時刻が内部時刻と等しいか、過ぎた直後にイベント発効します。その結果APSは一時的に過負荷になってもフリーズすることはありません。 そしてソフトウェアによる制御の比重を高め、旧来のAPSが備えていた制御卓も廃止し音声モニタなど手動制御はマウスで行います。ハードウェアと呼べるハードウェアはPC本体以外ありません。 更に無音検知機能も内包しました。その結果、旧来の無音検知機が機械的に復帰していたのに対し、 タイムテーブルに従った制御が可能になりネットオンエア中のローカルCM事故はありません。

 エフエムぬまづに設置した新APSは2017年11月、稼動約9年を迎えました。幸い今までシステムに起因する放送事故は発生していません。 ハードウェア比率の低いシンプルで高信頼の安価なシステムと自負しています。 またTTMに録音機能を追加し番組ごとの同録が可能になりVTR同録は不要になりました。 今も機能を追加しバージョンアップを続けています。 放送業界もかつての勢いは無く、昔のように贅沢に機器を注文製作することはできません。 但し放送業務のノウハウはメーカーに負けません。自作なら必要十分な機能を持ったリーズナブルな価格のものを手に入れられるはずです。 ソフトウェアでの問題解決はひとつの回答ではないでしょうか。勢いに任せて始めたAPS開発更新ですが順調に稼動しています。不明点など 遠慮なくお問い合わせください。

【追記 7/12,2012】現用予備体制
 2012年7月、FMぬまづで収録番組放送中に音飛びが発生し、直ちに予備APSに切り替えました。数日後、現用機がブルー画面でフリーズしました。HDDの故障でした。このPCはTinyCAPS他のアプリケーション開発に酷使に酷使を重ね、繰り返しフリーズさせ、何度もHDDフォーマットしOSを再インストールしたものです。購入後4年弱の早すぎる寿命でしたが、良く持ったと言うのが実感です。負荷を掛けていない予備機には同じ兆候はありません。現用機は修理され現用予備体制で運用再開しています。現用予備体制の強みを実感したできごとでした。今後設置する現用予備体制のシステムでは現用機には新品のPCを、予備機には中古のPCを用いコストパフォーマンスの高い設計を提案するつもりです。

【追記 7/23,2012】TinyCAPS導入経緯
 TinyCAPSを最初に設置したのはFMぬまづでなく、N市のCFMです。TinyCAPSを開発中にJCBA(日本コミュニティ放送協会)の会議で「自社開発の手作りAPS」として紹介したところ、当CFMの社長に興味を持っていただきました。採用決定後、紆余曲折があったものの社員の方々にも協力していただき、安価に設置することができました。既に4年以上運用を続けています。次にFMぬまづに現用予備体制を整えました。

 Y市のCFMは同じAPSを使っていた縁でTinyCAPSに更新していただきました。当CFMはNET番組2CH,局内スタジオ及び常設サテライトスタジオ の計4CHを使う意欲的なCFMです。

 特記すべきはS市のCFMです。当CFMはノートパソコンにインストールしたサンプルプログラム程度の機能しかない検討用TinyCAPSを不調だった旧APSに代えて運用を続けました。十分な試験運用の結果、実用に耐えるとして導入していただきました。検討用TinyCAPSをスタジオに組み込む緊急避難的応用は開発者にも思いもよらぬ運用で感心しました。

 北海道S市のCFMは当HPを見て採用を決めていただきました。採用にあたりご担当者にシステムを半日レクチャーし、 その後数回のメールでのやり取りだけで設置も先方でしていただきました。シンプルなシステムの故と自負しています。 当初機器の初期不良もあったのですが修理後、安定稼動を続けています。

 またH市の開局準備中のCFMにはAPS付きスタジオとしてTinyCAPSを設置しました。当CFMはミニFM局として番組制作など訓練を続け、 CFM開局後直ちに運用を開始する予定です。また現在開局予定中のI市のCFMもTinyCAPSの採用を決めていただき、 更に複数の局からお問い合わせをいただいています。

【追記 8/8,2012】バージョンアップ
 TinyCAPSとTTMの最新バージョンは其々2.18と2.08です。共に1.00から始まり大改修は整数部を、中改修は1/10の位を小改修は1/100の位を 桁上げしています。開発以来平均毎月1,2回改修した計算です。今も操作性、レスポンスそして安定性などの向上を求め、改良を続けています。

【追記 6/19,2013】最新導入事例
 2013年5月に導入していただいた局は現用予備方式のAPSを設置しました。またGPSを使った自前のタイムサーバーでAPSの時刻校正を行っています。インターネット経由で時刻を合わせる必用が無くAPS系のネットワークは完全に独立しているのでネット経由でのウイルス感染の恐れが低いシステムになりました。

【追記 11/10,2013】法定同録に無音警報機能追加
 法定同録アプリに無音検出・通報機能を追加しました。入力音声レベルが設定時間、設定レベル以下だと「無音警報」メールを関係者に通報します。その後正常レベルに指定時間復旧すると「無音回復」メールを通報し、OA信号を入力すればAPS→伝送回線→送信機のいずれかでの無音、無変調をメールで知ることができます。

 更にスケルチ機能つきのFM受信機出力を入力すれば無変調の検出も可能です。PCアプリケーションのみで動作し軽いソフトのため高性能のPCを必要としないので余ったパソコンを活用できます。ソフトだけで無音検知しますので従来の無音検知器+警報機の組み合わせなどに比べ簡単で安価です。

【追記 1/1,2014】簡易APSとトレーニングPC
 2013年末にAPSを導入していただいた局は仮設スタジオと簡易APSで放送を中断することなくAPS更新工事を行いました。この簡易APSはオーディオボード無しのPCにTinyCAPS.exeをインストールしたものです。更新工事前はトレーニングPCとして局員の方にTinyCAPSの操作と設計思想に慣れていただき、工事期間中は簡易APSとしてCM送出などに用いました。その結果工事の合間の質疑応答だけで工事終了と同時に本番運用に移ることができました。 シンプルで分かりやすいシステムの故と自負しています。

【追記 5/25,2015】PC更新
 最初にTinyCAPSを設置した局は約6年間安定稼動を続け、HDDがいつ故障してもおかしくない時期になったため事前にパソコンを更新しました。同時に「法定同録システム」を導入し、ビデオレコーダを使った旧システムを廃棄しました。

【追記 7/26,2015】閏秒
 2015年7月1日に閏秒8:59:60が挿入されました。TinyCAPSは2時間置きにインターネット上のタイムサーバーに同期するようにセットしていますので何もしなくても最長2時間後にはシステム時刻は補正されます。9:00amに手動でインターネット時刻と同期させるか自動同期するように設定すれば、閏秒挿入直後にシステム時刻は補正されます。FMぬまづでは前日の17:01に手動で時刻同期を行い、閏秒8:59:60が確実に挿入された後の翌9:01に自動同期するように準備しました。

【追記 9/21,2017】新局導入
 2017年9月21日、10月開局したH市の新局にAPSシステムとMusicBox、法定同録アプリを提供できました。約半日の説明の後、設置はご担当者が行いました。シンプルで分かり易い点が再認識されたと自負しています。

【追記 10/25,2017】新APS
 2017年10月、TinyCAPSVが完成しました。同じパソコンにインストールした外部入力3chの仮想(ソフトウェア)ミキサーを制御します。非常に軽くシンプルでPCとUSBオーディオインターフェイスだけで心臓部は完結します。(旧来のTinyCAPSはPCIオーディオインターフェイスボードが必要です。)操作卓、スイッチャー、クロスポイントなどのハードウェア無しで動作します。故障の恐れも少なく旧型PCなどでのバックアップも容易です。次に作った最新TinyCAPSWは外部入力5chの仮想ミキサーを制御します。

 詳細マニュアルはこちらからダウンロードできます。
不明点などこちらからお問合せ下さい。現地でのデモンストレーションも可能です。

藤嶋放送技術研究所(藤嶋正己) m-fujishima@sweet.ocn.ne.jp
〒422-8005 静岡市駿河区池田1695-8 Phone:090-4864-9767 Tel/Fax:054-263-8581

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